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2009年05月 アーカイブ

2009年05月15日

スタルヒンとダルビッシュ

独走する巨人を横目で見ながら、1冊の野球本を読み進めていた。
ただの野球本ではない。2段組486ページ、定価5000円(!)の大著。

創立したばかりの「大日本東京野球倶楽部」が、
1935(昭和10)年の3月から7月にかけて行った大遠征ツアーの完全追跡記録である。
巨人軍の“初代メンバー”となった18人の選手たちは、
米国西海岸、中西部、メキシコ、カナダ、ハワイで計109試合を戦い、
74勝34敗1分という戦績を残した。
対戦相手はマイナーリーグ、黒人リーグ、独立リーグ、日系人チーム、セミプロ、企業チームなど
多種多様。若き日のジョー・ディマジオもその中に含まれていた。
移動につぐ移動(飛行機ではなく、鉄道かバス)、試合につぐ試合。
しかも驚くべきことに、投手は沢村、スタルヒン、青柴、畑福のたった4人!
米国人をあきれさせたという殺人的スケジュールの遠征は、なぜ強行されたのか。
その主たる理由は、①野球技術の向上②試合興行による収入確保、だった。
当時、日本国内ではまだ他のプロ球団は発足しておらず、つまり対戦相手がいない。
それでは野球技術も向上しないし収入も得られないから、
“本場”の北米に乗り込んで鍛錬しつつ稼いでこい!というわけである。
この過酷なドサ周り興行こそが、いまのNPBの原点にほかならない。

ちなみに「ジャイアンツ」というニックネームが決まったのは、
この遠征に際して、現地のメディアや観客に対する便宜を図ったためである。
候補になったのは、当時の大リーグを代表する有名チームから頂いた
「ヤンキース」「ジャイアンツ」の2つだったが、
Yankeesは東部アメリカ白人(yankee)という意味だから日本のチームが付けるのは滑稽で、
「ジャイアンツ」に決まった。それが日本に逆翻訳されて「巨人軍」となったというわけ。

そういった野球史の再検証と同時に、
残されたボックススコアなどに基づいた各試合の再現を読んでいくのが楽しい。
寄せ集め集団が、様々な軋轢を乗り越えながら一つの「チーム」になっていく過程。
ワタシは、知らず知らずのうちに、21世紀のアメリカに乗り込んでいった
「日本代表」チームを重ね合わせていました。

大事な試合には必ず登板する「タフなエース」沢村栄治は松坂大輔。
「若き長身の混血投手」ビクトル・スタルヒンはダルビッシュ有。
「傑出した技術とカリスマ的言動」の苅田久徳はイチロー。
「奔放でヤンチャな内野手」水原茂は西岡剛。

当時の地元紙が「トーキョー・ジャイアンツ」をどのように紹介し、報道したかも
丹念に記録されている。その中から一つ。
「ジャップに野球がやれるかって? グラウンドをネズミの群のように走り回るさ。
アメリカのバッターのようなパワーはないが、守りの俊敏さと走者となったときの
スピードでそれをカバーする。見ればさぞ驚くだろうよ」

21世紀のWBCで「日本代表」に寄せられたコメントと、まったく同じじゃないか。
違うのは、「ジャップ」という言葉が使われなくなったことだけである。

(オースギ)

2009年05月31日

書評『パ・リーグどん底時代~激動の昭和48年』

なんどか酒席でご一緒させていただいている関係上、なんとなく書きにくいところもあるのですが、近鉄バファローズ、西本幸雄関連の書籍でおなじみの佐野正幸さんの最新作、『パ・リーグどん底時代~激動の昭和48年』はそうとう面白い。


その昭和48年とはこんな時代でした。
・前後期の2シーズン制導入
・太平洋クラブ、日拓ホームの新規参入
・ロッテに金田正一新監督、大暴れ
・野村克也プレーイングマネージャーの南海優勝
・阪急が江川卓を強行指名
・1年で日拓ホームが日本ハムに球団譲渡

読んだ感想として、現在のパ・リーグの繁栄から比べると確かに「どん底」な年だったわけですが、我が愛するロッテ球団がとても人気があった年であることも同時によく分かります。

金田正一のスター性にくわえて、本拠地を持たない「ジプシー球団」への判官びいき、最多勝成田文夫、完全試合の八木沢荘六の活躍などもあり、前年(31万人)からなんと三倍超(95万人)の観客動員を成し遂げたというエポックな年だったわけです。

さて、現在。「パ・リーグの繁栄」と書きましたが、本当に繁栄なわけです。昭和48年に比べると。

北海道から福岡まで、日本全国にひろがるパ・リーグ。ダルビッシュ、岩隈、杉内、田中将大と、世界に名を知らしめる好投手が目白おしのパ・リーグ。DHや予告先発、クライマックスシリーズなど新機軸をどんどん打ち出し成功を収めるパ・リーグ。

ただ、この本を読んで気づかされるのは、この繁栄が、「どん底」時代におけるさまざまな選手、フロント、ファンの一途で健気な想いの上に成り立っているということです。

フロントと監督の確執が取りざたされ、シーズン前に監督解任が決まり、フロントの一部の女性が暗躍しているという噂の我が千葉ロッテ。なにをやってくれてるんだ?

まず歴史を知ること、「どん底」時代を知ることから始まると思う。歴史の中に埋もれつつあるパ・リーグへの一途で健気な想いの上にあぐらをかくことは許されない。

すでに一部懇意にしていただいた千葉ロッテ球団の関係者も、いまはもういない。でも匿名で球団事務所にこの本を送りつけてやろうかしら。

長崎出版より。税抜きで1600円。

(ス)

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